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シノビガミ リプレイ『ロードムービー・血煙爆鎖』

EX.後日談


EX-1.終わりの始まり

シーンプレイヤー:榛 透、神楽 楼


人里離れた山奥に深々と降り積もる白い雪、その雪に隠されるように小さな山小屋が立っていた。
何かから隠れるように立てられた小屋の前で、色を失った青年は待ち人を待つ。

【透】
「……遠くに行くなと、言っただろう」
彼の方へと歩きながら、そんな風に。
【楼】
「久しぶり透ちゃん、これでもさー近いほうなんだよ海外じゃないし。」って言いながら着物姿で小屋の入り口の隣の壁に寄りかかりながら透に手をふるんだけど
透の知ってる楼と一つだけ違う部分がある
髪の色、前は黒かったけど今は白に近い灰色になってる色が抜けた感じ
【透】
では上から下までその姿を見渡して、
「でも、遠かった。……また待たせてしまっただろう」
とかって、ややつっけんどんな。
【楼】
「んーそんな事ないよ、一年ちょっとだもん。追手もだいぶ減ったしねーよかったよかった」
一年前と変わらない雰囲気で笑うよ
【透】
「一年は、長い。俺にはどうも」そこで一度言葉を切って、
「……苦労をかけたな」
【楼】
「いーんだよ俺が好きで勝手にやったんだから。時姫はきっと俺のこと恨んだと思うし」
【透】
「それでも、助かった」

【楼】
「あの子はさ今寝てるよ、さっき寝たとこだからしばらく起きないんじゃないかなー」
【透】
楼の前で足を止めた。手を伸ばせば届く距離。手を伸ばさなければ届かない距離。
「そうか。……会っても、いいか?」
【楼】
「会ってもいいっていうか透ちゃんの子でしょ、ちゃんと連れて帰ってあげなよ」って言いながら透ちゃんの手を握るんだけどその手はすごく冷たくてあんまり力が入ってない
【透】
「そうだな。連れて帰ろう」
握られた手を握り返して、そのまま、
楼の身体を担ぎ上げる。
【楼】
「なっ!?透ちゃんなにすんの」って言うけど壁に背を預けてたのも満足に立てなかったせいで言葉では否定するけどそのまま抱きかかえられる
【透】
えーと多分肩に上げる感じの。乱暴に言えば俵担ぎ、だけど手はしっかりと添えて。
「だから、連れて帰ると言った」
【楼】
「はっ?俺じゃなくて連れて帰るのはあの子でしょ?なにいってんのねえ?俺お尋ね者だよやばいんだって」
【透】
「大丈夫だよ。俺に勝てる忍なんて多くないんだから」
とかなんとか答えながら、じゃあ再び歩き始める。小屋の中へ。

【楼】
暖かい小屋の中にしかれた布団の中で子供が寝てる
【透】
じゃあ楼を隣におろして、自分も子供の側に跪く。
【楼】
隣に座って静かに二人を見比べてる
【透】
「……楼」
【楼】
「ん?なに透ちゃん」
【透】
見下ろした顔を彼から背けて、子供へと向けて、表情は窺わせぬままに。
「……俺は、この子に触れてもいいのか」
【楼】
「あたりまえでしょ、透ちゃんの子だよ紛れもなく」
【透】
「………」
確信を持てぬままに手を伸ばす。
【楼】
子供の手がその指を握る
【透】
「―――っ」
その感触に、柔らかさに、
漏れるのはもはや言葉ではなく、
ただの、嗚咽。
手繰るように縋るようにその身体を抱え上げたなら、
ひどく小さな、自らの子を腕に抱いた。

【楼】
「ちゃんとさ、名前つけてあげなよ。いつまでも名無しじゃ可哀想だから」
【透】
「……っ、――俺、が」
【楼】
「透ちゃんがこの世界で唯一のその子の身内だよ」
【透】
答えない。答えられない。
けれどそのあたたかさを手放せない。
【楼】
「ねえ透ちゃん、ちょっとだけ俺の方を見てもらっていい?ほんのちょっとだけ大事な話するからさ」
【透】
「………」
子供を手放さぬまま、無言で顔を楼へと向けた。
切羽詰まったその顔は、けれど、どこか、何かを強く信じるようで。

【楼】
「透ちゃんが間に合ってホントよかった、多分俺さ次の桜まで保たないと思う」初めて真剣な顔でそう透に告げてから苦笑するように笑みを浮かべる
【透】
「……そうか」
返る声は、おそろしく乾いたそれだ。
【楼】
「元々30までもたないかなーって思ってたんだけど、まあ色々無茶したからね我ながら。その子産んだ時によく死ななかったなって言われたよひどいよね」
といつもどおりの軽口で透に話す
【透】
「そうか」
短く返して、それから、
「……死ぬなよと、言ったのにな」
と、寂しげな。
【楼】
「だから透ちゃんに会うまでは頑張ったじゃん」
【透】
「それで、会ったら死ぬのか」
【楼】
「もうちょっとだけそばにいるよ、その子の面倒のみかた教えなきゃいけないし」
【透】
「それはいつまでだ」
押し殺したような、漣にも似た。
【楼】
「多分春までは無理かな、桜はきっと見れない。」
【透】
「……嫌だな」
ぎゅ、と子供を抱く。
【楼】
「俺もだよ、でもさ決めたから。俺はどんな事になってもその子を守るって。だからいいんだよ透ちゃん」
【透】
「良くない。何も良くない」

【透】
「……何でだよ。なんで、みんな死んじまうんだよ」
【楼】
「みんなじゃないよ、その子がいるじゃん。」
【透】
「子供に縋れるか」
【楼】
「じゃあ守んなよ、俺その子宿してから強くなったよー。なんでこんなに追っ手倒してんだろって思うぐらいに」
【透】
「守るよ。守ってみせる、それは約束した、それは絶対に――」
そこで再び声が詰まって、
【楼】
ゆっくりとふらふらしながら立ち上がって透の頭に手を伸ばして撫でる
「大丈夫だよ透ちゃん。この子はさ俺とか時姫が生きた証なんだからさ、透ちゃんは一人じゃないよ」
【透】
「……っ、あ――」
撫でられて、面は上がらず。
けれど背中が、ひときわ震える。
【楼】
「俺もできるだけ長くいられるように頑張るからさ」

【透】
「楼」
「……お願いだ」
【楼】
「何?透ちゃん」
【透】
「一緒にいてくれ。……言葉だけもいいから、褒めて――俺、頑張ったって」
【楼】
「馬鹿だなぁ、透ちゃんはいつも頑張ってるでしょ。舞台やってた時も辞めた時も一年前も今もこれからも」
【透】
「………っ」
【楼】
「透ちゃんは頑張ってるよ。いいこいいこ」って言いながら力の入らない手で頭をなでるよ
【透】
ひゅ、と喉が震えて、高く上がった空気の音の後に、
楼の服の袖を掴んで、彼の身体も引き寄せた。
【楼】
それはよろけながら透ちゃんに寄りかかるかな、昔よりもさらに身体が軽くなってる
【透】
その軽さに恐懼する。
けれどそれでも、何かを求めてその胸に、
縋り付くと初めて、声を上げて涙を流した。


EX-2.ただ貴方の幸せを願う

シーンプレイヤー:志津、神楽 楼


絡繰人形の独白

「ここを…斜歯を抜けるなんて思い立ったのは、時姫さんがなくなってからのことです。」
「時姫さんがいなくなってはじめて、自分が斜歯のお人らに、まったく必要とされていないことや、今後も役立ててはもらえないだろうことに気づいて。」
「外の世界なんて、時姫さんほどじゃないけど知らないのに、ひとりで斜歯を抜け出して、探して探して探して。」
「偶然か、それとも密かに何かの導きがあったのか、透さんに遅れること数日で、ようやくたどり着いたのです。」

(本当にここにいらっしゃるんでしょうか?)
そんな不安を抱きながら初めて自分で外に出た絡繰人形は山小屋の戸を叩いた。

【志津】
「神楽さん、おりますか?」
【楼】
その声を聞いたら立ち上がって、ゆっくりと扉に近づいて扉を開ける
「よく此処がわかったね、志津ちゃん」
【志津】
「ああ、いらっしゃった…!」 かえってきた声と、開く扉に喜ぶけれど、変わり果てたともいえる姿に目をみはる。
【楼】
「寒いからとりあえず中にはいんなよ」多分雰囲気は最後の方の時姫に近いんじゃないかなーって思う
【志津】
「はい。すみません、お体に障りますのに。お邪魔いたします。」
【楼】
そうしたら扉を閉めて「此処に来て大丈夫なの?志津ちゃん」
【志津】
気遣うより先に気遣われて困惑しつつ 「大丈夫、とは?」
【楼】
「えっだって志津ちゃん斜歯でしょ?」
【志津】
「はい。指矩の皆さんが作られたからくりです。」 どうしてそんなことをと。
【楼】
「いやだから、俺斜歯の敵だよ?透ちゃんもだけど。此処にいたら志津ちゃん戻れなくなっちゃうよ?」

【志津】
「戻っても、私にできることは何もないんです。」
【楼】
「じゃあ俺達と来る?」
【志津】
「……時姫さんと、神楽さんは、」
「私をお役に立ててくださった、ただお二人の人間さんなんです。」
「きっとまだ、私は何かできると思って、参りました。役に立てる間で構いませんから、どうかお連れくださいまし。」
【楼】
「そっかそっか志津ちゃんは相変わらずいい子だね。ねえ透ちゃん連れてっていい?」よしよしと志津ちゃんの頭を撫でながら透に声をかけるよ

【透】
「構わん」
と、一言。
その腕に、小さな子どもを抱えている。
【志津】
そちらを見る。
そして、ふかぶかと頭を下げます。
【透】
こちらも瞳を伏せる、けど、
【志津】
「時姫さんを幸せにしてくださって、ありがとうございました。」
【透】
うー、あー、って、その腕の中で子供がないた。
志津へを見つめて、まるい掌を広げて、腕をぱたぱたと懸命に。
【志津】
「…? 私に御用ですか?」
近付いて行きましょう。
【透】
「……何か、感じるところがあるのかもしれないな」
呟く声は子供に慣らされた柔和さで、
こちらに来た志津を、彼女は満面、笑顔で迎えた。

【透】
赤子「だー!」
【志津】
「かわいらしいですね。人間さんのお子は、言葉を話せるようになるまで、どれくらいかかるんでしょう。」 微笑み返して。
【透】
「どうだろう。……子育てなど、したこともない」
伸ばした掌が振られる様を、ただ、愛おしげに見つめている。
【志津】
「おはなしができるようになったら、時姫さんのこと、たくさん教えて差し上げませんと。」
【透】
「……手伝って、くれるか?」
【志津】
「はい。どうぞ、お役に立ててください。私はそのために参りましたから。」
【楼】
「あっ透ちゃん、ちょっと散歩行ってきていい。志津ちゃん連れてくからさ」
【透】
「……ありがとう」
穏やかな声でそう返すと、楼に頷いた。子供を軽くあやしてやりながら、志津に視線で示す。

【志津】
「はい。上着はどちらです?」 早速世話を焼くぞー。
上着なしで行くとかだめよ
【楼】
「んーあっち」そのままでていこうとしてた
【志津】
やっぱり!
【透】
じゃあその肩にぽすん、と羽織でもかぶせる。
【楼】
「ありがとう志津ちゃん」って言いながら外へ
【志津】
「はい。ご無理はなさらんでくださいね。」
楼さんに肩を貸して一緒に外へ。

【楼】
手をつなぐ感じにしようか
【志津】
手だけで大丈夫です?
【楼】
多少ふらつくことはあるけど歩ける歩ける
【志津】
じゃあ、てつなぎで。
【楼】
しばらく何も言わないで歩いてから不意に立ち止まって「驚いたでしょ、俺髪色変わってたし」
【志津】
こちらからも何も言わず、じっと付き添っていて。 「はい。」
言いたいこと、ききたいこと、きくべきことはあるのだけれど、
何から、どう言えばいいものか。

【楼】
「でも志津ちゃんが来てくれてよかった、これで透ちゃん一人にならないから」
【志津】
「……はい。」
【楼】
「透ちゃんをお願いね、ああ見えて寂しがり屋だから」
【志津】
「はい。お役に立てるかぎり。」
【楼】
「俺ももうちょっと長くいたかったなー。」
【志津】
「神楽さん……?」
【楼】
「わかってたけどさ、やっぱ短いなって。俺のせいだけど」
【志津】
「……あと、どれくらい、いらっしゃるんでしょう。」
【楼】
「この雪が溶けるまでいられたらいいなーってぐらいかな」
【志津】
「そんなにはよう、ですか。」
【楼】
「あの子がいる間薬飲まなかったからね、元々薬で伸ばしてたようなもんだから」
「よかったよ、あの子に俺の身体の影響が出なくてさ」
【志津】
「はい…。」

【志津】
「神楽さん、本当にありがとうございます。」
【楼】
「ん?俺志津ちゃんにはしてもらってばっかだと思うけど」
【志津】
「いいえ。」
「神楽さんが榛さんと時姫さんのお子を守ってくださったから、時姫さんは幸せになれたんです。」
【楼】
「幸せだったんだ」
【志津】
「抜け殻のようだった時姫さんが、目を輝かせて笑われたんです。」
【楼】
「そっか」
【志津】
「神楽さんが、幸せにしてくださったんです。本当に、ありがとうございます。」
【楼】
「礼を言われることじゃないよ、二人を不幸にした原因は俺なんだからさ」
【志津】
「そうは思いません。たしかに、傷付けあうことになったんは、まじないのせいかもしれませんけれど」
【楼】
「それでも俺の罪は変わんないよ志津ちゃん…ただ少しでも幸せならよかったよ」

【志津】
「……神楽さんは、」
「どうしたら、幸せになれますでしょうか。」
【楼】
「十分幸せだよ、志津ちゃんがいて透ちゃんがいてあの子がいる」
「一人で野垂れ死ぬと思ってたから、それよりずっといい。だから幸せだよ」
【志津】
「では、最期までお傍におります。」
【楼】
「ありがとう。志津ちゃん。…帰ろっか雪降ってきたし」
【志津】
「はい。体もだいぶ、冷えてしまいました。帰ったらお湯を用意いたしますね。」
【楼】
「志津ちゃんは働き者だね。」

普通の人のように交わされる日常の会話。
願わくばこんな時間が出来るだけ長く続きますように。
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