とある山深い森の中に、崩落したエレベータの昇降路が大口を開けていた。日の暮れかかる頃、木々を飛び渡ってきた独りの忍者――つまり、あなた――が、その大孔の縁に降り立ち、奥を覗き込んだ。暗く、深い。事前に得ていた情報によれば、それはおよそ直下500m――海抜±0mまで伸びているという。
「研究サイト ATD-KNG-L」。斜歯忍軍によって設立されたその研究施設は、数ヶ月前に発生した事故以来遺棄され、放置され続けている。施設内は電波的に完全に隔絶されており、また伝送路も事故時に破損したらしく、降りてしまえば脱出するまで外界との連絡手段が絶たれることになる。
だから、ここに偵察のため、或いは斜歯のデータの回収を目論んで送り込まれた忍者たちが、何故いずれも帰還しなかったのか、地上の何人(なんぴと)も知らない。
しかし、斜歯忍軍の中枢で機密情報を閲覧する権限を持つ者、或いはそれを苦心して盗み見た者は、そこであの時何が起き、そこに今何が「いる」かを知っているという。あなたは直にその情報を見たわけではない。あなたが事前に知ることができたのは、漏洩した僅かな情報が口伝てに広まり歪んだ果ての、眉唾物の噂だけだ。
巷が囁いて曰く――ATD-KNG-Lには、服だけ溶かすエッチなスライムの妖魔が巣食うのだと。