男が泣いている。
「なぜ泣くんだ?」
連れの女は男へ訊ねた。
「……○○が死んだからですよ……」
男は静かに述べた。
「泣くことに意味があるのか?どうせ死者はその涙を見れないのに」
女は理解できないというように言った。
「そうですね」
男は微笑むと女の頭をなでる。
「でもね、誰かが死んだとき泣いてくれる者が一人でもいたらその誰かは幸せだと僕は思うんです。だから僕は泣くんですよ」
女は男の言葉を黙って聞いている。
「僕が死ぬときも誰かが泣いてくれると嬉しいですね。ねぇ、貴方は君は僕のために泣いてくれますか?」
男は女に訊ねた。
「……」
女は答えずにどこかへいってしまった。
その後ろ姿を見送ると男は再び死者を想って泣いた。
その数日後、彼の問いの答えが判明する。
仮定ではなく、現実となって……。