かつて1人の王が居た。
王は人のために正しくあり続けた。
王は理想に準じていた。
王は民草を救い続けた。
精錬にして潔白な聖者であった。
誰もが彼を理想と王と呼び続けた。
しかし、彼は救い続けるばかり、王として民草や臣下を導くことがなかった。
故にからか、歪なヒビが彼らの国には広がり続けた。
ある臣下は彼を見限り何処へと去り、ある臣下は彼へ刃を向け、ある女はそんな彼に愛想を尽かした。
やがて国は戦果によって滅び、時代が動きその国があったという歴史のみが残った。
王は責めた。自らが王になったが故に、こうなったのだと。
王は嘆いた。彼らが死んだのは我が王になったが故と。
王は絶望した。この身はどうしようもなく、人として壊れているのだと。
故に彼は望みをひとつ得た。