――虫を喰わせと蟲ぞ哭き。
土蜘蛛――大和王権以前に日本各地で勢力を誇った隠忍の血統の末裔。
朝廷に恭順しなかったため、多くの家系が滅ぼされた、まつろわぬ者達の蔑称。
彼らの多くは山中に里を作り、独自の女系社会を築き、日本政府に対抗するべく、長い雌伏の時を過ごしながら力を蓄えている。
この物語の舞台となる里も、彼ら土蜘蛛の住まう集落である。
里には一つの変わった風習があった。
それは里の長たる『女王』が産んだ二匹の『女王候補』を競わせて
次代の『女王』を選出する『蟲喰いの儀』。
その儀は、己が半身を喰らうことで成立する。
故に女王候補達は、互いに反目し、憎み、殺し合う。
定められた運命に対し、一片の疑問を挟む余地もなく。
だが10年前、その風習(システム)に一つの齟齬(バグ)が生じた。
幼き女王候補達が偶然出会い、互いに惹かれあってしまったのだ。
無邪気に再会の約束を交わした二人の王女は知らない。
目の前にいるこの少女こそが、10年後、争い、殺し、食らうべき半身であるということを。
虫を喰うは蟲喰い。喰われ虫の穴は虫食い。
欠けた虫を想い蟲悔い。
終にお悔やみ申し上げても無視。
――これは欠落《バグ》を埋めるべくして女王《バグ》たちの見た夢。
シノビガミ「虫を喰わせと蟲が哭く」
さあ蟲どもよ、踊れや踊れ。
夢の褥で踊れ。腹の底で踊れ。
――虫を喰わせと蟲よ、哭け。